介護現場の不満ベスト3
介護職員は、多くの不満を抱えています。
待遇や人間関係など、個別の環境に類する不満もありますが、総じて言えることは「人手不足」に対する不満が大きいということ。
介護業界における人手不足の影響を一番強く受けるのは、なにより現場で働く介護職員です。
世間からも「過酷な仕事」のイメージがついている介護職ですが、現場の職員の実感はどのようなものでしょうか。
労働時間の長さ
まず、労働時間が長さがあるでしょう。
職員数が限定される中で、多くの利用者に尽くそうとすれば、労働時間の長さが慢性化します。
施設経営者が「利用者至上主義」を標榜し、「利用者のため、行き届いた質の高い介護を目指そう」などと意気込むほど、職員の労働時間は増えていく傾向にあります。
職員が経営者の理想に押しつぶされないよう、配慮する必要があることは、言うまでもないことなのです。
重労働
仕事内容自体がハードという声もあります。
休憩時間以外は、施設の中を一日中走り回り、気の休まる時間がありません。
利用者の体重を支えて介助するなど、肉体的な負荷がかかる業務もあります。
ほとんどの施設では、人手不足をパートなどで補っており、専門知識を持つ人の数も少ないことから、新卒で入ってもベテランの技術を学ぶことは難しく、教育もされないまま、ひたすらキツい日々が過ぎていくことになります。
休暇が少ない
休暇にも問題があります。
パートさんは繁忙期であっても、家の都合などで休みをとります。
それはパート契約なので仕方がないことです。
しかし、そのしわ寄せは職員にくることになります。やむなく休日出勤をしたり、休みたいタィミングで休めなかったりすることも多く出てきます。
これでは心身ともに疲弊してしまいます。
不満の根源は「人手不足」
この元凶はとにかく「人手不足」。
それを省みることなく、「福祉の精神で利用者に尽くすのは当たり前」との正論を押しつけすぎてしまうと、職員は精神的に追い込まれてしまい、つらい思いをする要因になります。
介護の現場で利用者を優先するのは当たり前ですが、一方で施設を支えている職員たちの気持ちも無視できません。
経営者や管理職はもちろんですが、介護職員同士でも支え合うなどして、不満の溜まらない環境を整備することが大切になります。
疲れて精神的にきつそうな職員はいないか、チームとしてうまく機能しているのかなど、お互いに細かな目配りがあるべきでしょう。
経営者や管理職はこれらの確認を現場任せにせず、自らも常に気を配り、自分の目でチェックしなければいけません。
介護の仕事の面白みを奪うと不満が溜まる
介護は介護保険制度内に縛られるので、その経営は自由な発想で新たな業務にトライすることが難しい現状があります。
税金を使っていることもあり、業務内容には多くの規定があり、確認のために定期的に行政監査が入ります。
つまり、介護施設とは行政の指導に従って経営をしているようなものです。
税金を財源にしている以上、ある程度の拘束は仕方のないことですが、あまり行政に神経質になってしまうと、本来持つべき経営判断などに自由度がなくなります。
そうなると、職員のモチべーションが下がってしまいます。
まるで言われたことだけをやる下級公務員のような感覚になってしまうのです。
介護の仕事には、利用者個々に応じた接し方や介助の仕方があるという、とてもクリエイティブ面があります。
このクリエイティビティもまた介護の仕事の大きな魅力ですが、経営者が行政に過敏になるあまり、「余計なことはせず、法令順守の範囲内だけの仕事をすればいい」という観点から指示を出してしまえば、職員の自由な行動を制約してしまうことになり、結果として仕事のやりがいを奪ってしまうのです。
行政の指示を遵守するとしても、その枠の中でいかに新しいことに挑戦できるかという視点で現場の意見を集約し、自らの介護施設ならではの新たな介護手法を生み出すことができるクリエイティブな職場環境をつくるようにしなければ、職員のモチベーションは維持できません。
また、行政による公的文章にはグレーな表現が散見されます。
これは現場の裁量を縛りすぎないように、敢えて曖昧にしてあるという行政側の配慮でもあります。
つまり、グレーな部分は自らの施設にとってプラスに判断すればいいのです。
もしそこで、より安全な捉え方をしようと消極的判断をしてしまうと、介護職員は不満を溜めてしまうことになるでしょう。
ひとつの事案に対して、それが経営者としての「経営判断」であるという自信と、判断の意図や意義を胸を張って主張できる強さも、介護事業の経営者に求められる重要な資質なのです。
「見て覚えろ」では不満が蓄積
介護業界では、作業手順マニュアルを作ることを嫌う傾向があります。
確かに利用者に対する正しい介助の仕方や接し方はそれぞれ違いますし、状況によって臨機応変な対応が求められることも多いので、画一的な内容のマニュアルなどは無意味という考えは理解できます。
また、すべてをマニュアル化してしまうと、結局は効率重視、スピード重視の介護になってホスピ夕リティが置き去りになるので、アンチマニュアルも理解できます。
しかし、一つだけ例外があります。それは、経験の浅い職員に対してです。
介護業界は、未だ職人の世界のように「仕事は見て盗め」「頭より身体を動かして覚えろ」といった風潮があります。
それが新人職員の退職を助長し、若者が定着しない要因になっています。
高校卒業後に介護業界に飛び込んだり、専門学校で少し介護を学んだ程度の若者は、介護職員以前に、社会人として新米です。
そんな彼らに対し、「見て覚えろ」で、ミスをすれば叱るという対応は適切とはいえません。
間違いなく若い芽を摘むことになります。
また、教育側のベテラン職員も多忙を極めているので、新人につきっきりで教育をするのは難しいはずです。
片手間の教育で新人は育たないのです。
キャリア10年以上の職員を中途採用したのであればともかく、経験の浅い職員には、やはりマニュアルがあったほうが安心できます。
人材不足であるからこそ、日々のルーチンワークなどをマニュアル化しておいたほうが、教える手間も省けます。
また、マニュアルを作ると、教える側も個人任せになりがちな業務を俯瞰でき、施設の業務体制を見直すきっかけにもなりますからメリットは大きいはずです。
新人には、まずはマニュアルを活用しながら基礎を習得してもらう。理解が深まった段階でクリエイティビティを求める。
介護業界も、将来を担う金の卵である若者たちに対し、口頭や勘に頼った前時代的な新人教育を押しつけるのをやめなければなりません。
優秀な人材ほど不満を溜めやすい
即戦力の優秀な人材の獲得は、多くの経営者の望みです。
そして、そうした人材には能力に見合う給料や役職を与えるなど、目をかけつつ将来の管理職候補として育てていくのが通常です。
しかし、介護業界では、優秀な人材ほど、流出しやすいという残念な傾向があります。
介護報酬の減額などから、給料を上げることは難しくなっており、必然的に昇進のシステムもつくることができないというのが理由のひとつです。
しかし、これ以外にも、実は流出の理由が存在します。
優秀な職員は、利用者にとってよりよい介護とは何か、そのために自分ができること、すべきことは何か、ということを常に考えながら仕事をしています。
認知症の利用者は、職員がていねいに向き合うことで落ち着く場合が多くあるため、優秀な職員であるほど、落ち着くまでそばにいてあげたいと考えます。
しかし、人材不足はこのようなケアをすることを許してはくれません。
優秀であるがゆえに頼られることも多く、丁寧なケアが必要であっても、それを実践することが許されないのです。
自分の理想とする仕事がしたいのに、それが許されない……
この不満は、優秀な職員の心を次第にむしばんでいきます。
そうして結局、中途半端な仕事しかできないことに耐えられなくなり、別の施設に移ったり、職種を変えたりといった選択をするのです。
優秀な職員が持っている経験と情報はとても貴重で、言語化するのが難しく、すべてを引き継ぐことなど不可能です。
同時期に優秀な職員が2人辞められたために、彼らが持っていた知見を失い、施設のサービスの質が以前の半分以下にまで落ちたという事例もあります。
そして、それが再び以前の水準まで戻るのには、少なくとも1年以上を要したとのことでした。
これは当然、施設運営上での大きなマィナスとなりますが、一番の被害者となるのは、利用者であることを忘れてはいけません。
まとめ
介護職員の不満は「人手不足」が原因であることが多いので、経営者や管理職だけではなく、職員同士のフォローで不満を解消するよう調整していくことが大切です。
もし、状況が改善しない場合は、転職で新たな活躍の場を探してみるのもいいでしょう。