介護の仕事の価値
誰の役にも立たないような仕事など世の中には存在しません。
すべての仕事は需給があるからこそ成立しています。
しかし、中には衣食住のように最低限の生活に関係しないような、なくても生きてはいける仕事も存在しています。
それらに比べれば、介護という仕事は多くの人に必要とされ、多くの人に貢献している仕事と言えます。
多くの人の心からの笑顔やうれしそうな表情、そして感謝の言葉。
一生懸命働き、たくさんの人と接するほど、このようなポジティブな体験が重なり、それがやりがいとなっていきます。
また、他人に尽くすことで、人の気持ちや心の痛みがわかるようになり、真摯に働くことで人間的にも強く、やさしく成長していきます。
誰かに尽くして働くということは、介護や福祉の本質であり、人に感謝される喜びはその大きな報酬となります。
「職業に貴賤なし」と言いますが、本来であれば、介護の仕事も「3K」といったネガティブな報道や表現で貶められるものではなく、やりがいのある魅力的な仕事なのです。
それなのになぜ、人材不足に陥っているのでしょうか。
その理由は、大きく分けて三つあります。
行政や制度の問題
賃金の低さが介護業界に人が集まらない大きな理由であるとの論調がありますが、介護士の給料も行政や介護制度の問題と言えるでしょう。
職場の問題
夜勤などの過酷な環境で労働を強いられた結果、真面目で一生懸命な介護士ほど「燃え尽き症候群」になってしまうのです。その結果、身体だけではなく心を病んで職場を去る人も後を絶たないと聞きます。
年齢の問題
業界全体では若い世代がまだまだ少ないため、古い価値観に縛られている施設がたくさん存在し、高齢の経営者がすべてを管理しているため、IT化など世の中の変革にもまったくついていっていないようなことも多いため、若い世代には魅力的に映らないのです。
この介護業界に存在する「三つの壁」を打ち破る突破口がない限り、介護業界は刷新できないかもしれません。
行政・制度の壁
介護報酬引き下げの衝撃
介護保険制度では、訪問介護やデイサービス、特別養護老人ホームなどのサービスごとに支払う介護報酬の額を国が決めています。
そして、介護報酬は3年ごとに見直しが行われることになっています。
過去を振り返ってみると、介護保険制度が発足して以来、2014年までの間に4回の改定が行われてきました。
1回目、2回目は、社会保障費をこれ以上増やさないという名目で、いずれも2%ほどの介護報酬引き下げが行われました。
介護事業者というのは、サービスを提供して受け取った介護報酬の中から、人件費、固定費などすベての経費を捻出します。
介護報酬が引き下げられるということは、いわば同じ仕事量を消化しているのに給料が力ットされるのと同じことなので、経営に極めて深刻な打撃を与えます。
介護業界では、売値を事業者側が決めることができません。いくら質の高いサービスを提供し、その単価を上げようとしても無理です。
単価は国の報酬改定によって引き下げられてしまうことがあるのです。そのため、収入が減れば利益を確保するために経費を削減するしかありません。
介護施設の経費の多くは「人件費」
最も大きな支出は人件費です。介護施設でも、介護報酬の6割から7割は人件費に使われます。
経営者は、収入が減ればまず人件費を見直さなければならず、結果として、どうしても職員の賃金が抑制されやすくなります。
この介護報酬の引き下げによる人件費の削減が、働く人たちの介護離れをさらに加速させた大きな理由になっているのです。
これを受け、多くの関係者が政府に対し、介護報酬引き下げ反対の声を上げました。
「これで経営を維持できるはずがない」といった切実な訴えが届いたのか、3回目の改定では政府はこれまでの方針を一転させ、介護報酬を引き上げるとともに、介護職員の処遇改善に取り組んだ事業者には交付金を支給して賃上げを後押しし、4回目の改定では交付金の代わりに介護報酬に賃上げ分を加算する仕組みをつくりました。
この政策によって、介護職員の給料は月額3万円程度引き上げられる効果があったと政府は試算していますが、果たして本当にそこまでの効果があったかどうかは未知数です。
ところが一転、2015年4月より施行された5回目の改定では、介護報酬が全体で2.27%引き下げられました。
政府としては、介護業界の人材不足を十分認識したうえで、職員が資格を取るための研修を行ったり、非正規労働者を正社員にしたりするといった介護職員の処遇の改善に取り組んだ事業者には介護報酬が加算されるという項目を追加したといいます。
人件費に関するリスク
それにより、介護職員の月収が1万2000円程度上がると見込んでいますが、この数字もあまり現実的とはいえません。
まず、職員の給料を上げれば報酬を加算するという「処遇改善加算」を増やすとしていますが、加算の対象となるのはへルパーなどの介護職員に限られ、看護師や事務の職員などは対象外です。これでは、職員全体で月収1万2000円アップなどできるはずがないのです。
また、加算される介護報酬の分だけ給料を上げるとするなら、確かに施設側にとってはノーリスクに見えますが、ここにも落とし穴が潜んでいます。
介護報酬は3年ごとに見直されますから、次回ではこの加算がなくなることも十分考えられます。
そうなった際、一度上げてしまった給料を元に戻すようなことが簡単にはできないことは、想像に難くないと思います。
職員のモチべーションはさらに低下し、離職にもつながりかねません。
その他に「認知症」の人の受け入れや「看取り」に積極的に取り組む施設への加算も増やすといいますが、その条件として看護師や介護福祉土の数を増やすことが挙げられており、深刻な人手不足の中で果たして機能するかは疑問です。
現実的には、やはり介護報酬の引き下げばかりが重くのしかかり、給与の改善にはつながりにくいということがいえると思います。
特別養護老人ホームの内部留保
厳しさを増す特別養護老人ホームの経営
5回目の改定による引き下げで、特に大きく報酬を減らされたのが、特別養護老人ホームです。
保険制度そのものも大幅に見直され、新規に特別養護老人ホームに入所できるのは要介護度3以上の症状が中程度の高齢者に限り、要介護度1や2の軽い人は原則として特別養護老人ホームには入れなくなりました。
特別養護老人ホームの介護報酬の引き下げ率は、およそ6%です。
給料が十分とはいえず、ゆとりのない生活を送っている中で、会社がさらに給料を6%も下げたとしたら、どう感じるでしょう。
生活を維持するために転職を考える方も多いのではないかと思います。
この引き下げによって、特別養護老人ホームの年間収入は平均で1500万円ほど減額し、実に5割近くの特別養護老人ホームが赤字に転落する恐れがあると言われています。
人手不足で苦境に立たされている特別養護老人ホームはいくつもあります。
そのような状況下であるにもかかわらず、なぜ報酬が減額されたのかといえば、介護費用の財源不足が主な理由です。
現在、介護にかかる費用は10兆円規模に膨らんでいます。
その一方で、消費税10%への引き上げが2017年に先送りされるなどした影響で、十分な財源を確保できなかったことが影響しています。
その犠牲になったのが、特別養護老人ホームだったのです。
介護施設における内部留保
企業が蓄えとして利益を貯めておくことを「内部留保」といいますが、世間では、社会福祉法人の内部留保を問題視する声が上がり、財務省もまた「社福は儲けすぎである」と見ています。
その根拠としてやり玉に挙がるのが、事業の収入から支出を差し引いた「収支差率」です。
民間の中小企業が平均で2%あまりの収支差率なのに対し、特別養護老人ホームは8%程度と高い数値であり、利益を内部留保として貯め込んでいるので介護報酬を引き下げても問題ないというのです。
しかし、これはあまりにも実情を知らない人の理論です。
内部留保に対して批判的な見方をしている人の多くは、「税金から支払われるお金を貯め込み、ぬくぬくと私腹を肥やしている」という大きな誤解を抱いています。
内部留保のほとんどは、施設の修繕や建て替えをするための積立金です。
規模の大きな施設であれば、修繕費の額もそれなりに大きく、一年の収入の中からだけではとても払いきれませんから、先を見越して積み立てをしておき、いざ老朽化してきた際に、それを使って修繕や建て替えを行うのです。
自身が老人ホームに入ることになったときに、いくら費用が安いとはいえ、壁がひび割れて黄色く変色し、お風呂にも掃除では取りきれないカビが生えているような施設を選ぶでしょうか。
耐震設備に不安があるような、築数十年の施設を利用したいと思うでしょうか。
内部留保を奪うということは、将来このような施設が増えるということにほかなりません。
厚生労働省の調査によれば、全国の特別養護老人ホームの内部留保は平均で3億円あまりです。
しかしその実情としては、規模の大きな施設を長年にわたって運営し、10億円を超える内部留保を抱えている事業者がいる一方で、内部留保がまったくない事業者も数多く存在し、ばらつきがあります。
それに対し、介護報酬は一律に減額されますから、経営が立ち行かなくなる特別養護老人ホームが数多く出てくるというのは、もはや避けられない事態となっていると考えられます。
果敢に地域の社会問題に挑んでいる法人であればあるほど特に大きな痛手となっています。
こうして引き起こっている経営難の最中、人材を確保するために投資せよ、職員の給料を自助努力で改善せよ、といわれても、今はそれどころではないというのが経営者の本音でしよう。
しかし政府にはそうした「現場の悲鳴」がなかなか届かないようです。それにより、介護職員の生活が脅かされているとなれば、介護職員達が転職を考えるのも無理のないことなのです。
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