男性の離職率と学生減少の実態
介護業界に男性の働き手が少ないというのは、関係者であれば誰もが認識していることでしょう。
介護職員の男女比率は約2:8と女性が圧倒的多数です。
また、男性の平均勤続年数は5.3年と全産業平均の半分にも満たなくなっています。
介護業界内での転職も多いとはいえ、やはりこの離職率は問題です。
これでは、現場での力仕事などが残った一部の男性職員に集中してしまい、現場での業務効率も低下してしまうでしょう。
賃金を含め、男性が「一生の仕事にしよう」と思って働けるほど魅力的な職場が少ないという現実を認識する必要があります。
具体的には、以下のような理由で離職率が上がっていると思われます。
■肉体労働であり、仕事よりもきつい
■体力勝負なとこがあるので、一生続けられるのか心配
■経営者や管理職などの運営側の考えについていけない
■理想とする先輩おらず、キャリアビジョンがつくれない
■介護職を続けても人生に夢が持てないので、早めに転職した方が無難
具体的には 、 厚生労働省が公表している「介護職種の離職率」を確認してください。
また、同じく厚生労働省が発表している「介護人材の確保について」も参考になるはずです。
介護職を目指す学生の減少
また、介護福祉関係の大学や専門学校の入学者が減少しているというデータも衝撃的です。
ある福祉専門学校は、入学者数が年々減り続け、現在では定員100人に対し、わずか25人の学生しかいなくなりました。
しかも、そのうち11人は、留学生です。
福祉や介護の学校も赤字では運営できませんから、学生を集めるために看護科を設置するところが多く、結果として福祉や介護の分野以外に力を入れるようになってしまっています。
悪循環と本末転倒です。
また、ある介護福祉系大学では、卒業生のうち介護業界に就職する学生の数が全体の約30%しかいません。
せっかく介護の専門知識を学んでも、就職先として介護業界を選ばない学生も非常に多いのです。
これは、待遇の問題や将来不安に起因している問題だと言えます。
離職率が高い職場の8つの特徴
介護職として、就職や転職をしようとする際に、おすすめできない介護施設があります。
以下の条件に該当する場合は、離職率が高い可能性があるので、働く先としては適切でないかもしれません。
規模のわりに採用人数が多すぎる
職員数に比べ、明らかに多くの採用をしようとしている場合は、退職者が出ることを想定して大量採用をしている可能性があります。
大量に採用できたとしても、教育制度が整っていないことが多いので、せっかく採用した人を育てられずに、結局はまた退職者を出すという悪循環に陥ることが多いのも特徴と言えます。
常時、採用活動をしている
常に求人募集をしている介護施設も危険かもしれません。
「この求人、よく見るな」「この施設、また募集している」という場合は、辞める人が多いと考えられます。
待遇、人間関係などに問題があり、離職率が高く、採用活動に苦戦している場合が多いと考えるのが妥当です。
給与が高すぎる
相場以上の高い給与も注意が必要です。高額な給与を提示して人を集めようとしている可能性もあります。
本当に高額な給料が支払われればいいのですが、手当てや残業代で調整し、結局、総額は安く抑えられる可能性もあるので、この点の確認が必要になるでしょう。
年間休日数が少ない
給与は高いけど、休日が少ないというケースもあります。
必ず年間休日数を確認しましょう。
医療・福祉分野の年間休日数の平均は109.2日なので、年間休日が110日以上ある介護施設を選べば間違いないでしょう。
職員間のコミュニケーションがない
職員間の会話や笑顔がなく、なにかギスギスした雰囲気を感じたら、その介護施設はコミュニケーションが不足していると思われます。
人手不足が深刻で余裕がなく、毎日仕事に忙殺されているかもしれません。
こんな環境で長く働くことは難しいでしょう。
面接が短時間で真剣さが感じられない
数分の簡単な面接だけで「いつから来られる?」と聞いてくるような介護施設は職員を大切にしない文化があるかもしれません。
人手不足状態で、誰でもいいから労働力が欲しいという状況だと思われます。
労働条件や福利厚生の説明がなく、質問しても曖昧にされたりする場合も危険です。
施設側が不利になるようなことを極力言わず、とにかく誰でもいいから採用したいとの意思の表れだと思っていいでしょう。
全体に清潔感がない
介護施設は清潔であることが求められますが、そこまで手が回っていないというのは大いに問題です。
人手不足で気づけない状態、若しくは見て見ぬフリが常態化している懸念があります。
結果として、ヒヤリハットや事故につながる恐れもあるので、とても危険な兆しです。
そこで働く人が信頼できそうもない
面接および見学は、施設長やリーダーと話せる絶好の機会なので、そこで接した人の人間性を確認してください。
人間関係が良好であれば、施設全体が明るい雰囲気になっているはずですが、経営者や管理職が強権的であったり、派閥があったりした場合には、なんとなく殺伐とした雰囲気が伝わってくると思いますので、そこで働く人の人間性や人間関係を観察してみてください。
介護施設経営者の人材獲得の努力
それでも、介護施設の経営者は、労働環境を改善し、なんとかよい人材を確保しようと努力を重ねています。
しかし、そんな努力に水を差すように、介護報酬の引き下げが行われました。
政府は2015年度の介護報酬全体を2.27%カットしました。税収などで賄われている介護費用の増加を抑制するためです。
同時に職員の賃金をアップするために手当を拡充していますが、介護報酬をカットされた社会福祉法人などは大幅に減収となり、経営を圧迫されます。
その結果、経営が不安定になって雇用を減らしたり、非正社員化せざるを得ないということになれば、要介護者へのサービスの質も低下し、本末転倒です。
内部留保があるから経営が好調という誤った認識から介護報酬が引き下げられた結果、人件費を抑えざるを得なくなり、「人を雇えない、人が集まらない」という負のスパィラルに陥る施設がいくつも出てくるでしよう。
これが介護業界の実態であり、自らが業界の魅力を消滅させていっているのです。
介護業界の常識は、世間の非常識
1999年以前の介護業界では「介護福祉サービス」という枠の中で、行政がサービス内容を指示する「措置制度」でした。
施設の利用者は、役所に申請し、役所の定める施設のサービスしか使えませんでした。
デイサービスなども決められた施設で決められた回数しか利用できませんでした。
経営者側からすると、地域という固定された地盤で安定的に利用者を得ることができることになり、施設ごとの競争原理は働きません。
措置制度とは、国の委託で介護施設を運営する社会主義的な制度だったのです。
その後、2000年以降は、この状況が改善されます。利用者は自分たちでサービスを選択し、個々に事業所を選べるようになりました。
それをきっかけとして民間企業の参入が相次ぎ、施設の数も増えていきました。
つまり、2000年の介護保険法の施行により、福祉や介護の世界は社会主義から資本主義に変わったのです。
それ以降、介護業界のビジネスとしての歴史は、わずか15年にすぎないので、まだまだ世間の常識からはかけ離れている面があり、自浄作用を働かせなければいけないと言えるでしょう。
介護業界の問題点
介護業界には、民間のビジネスではありえないような常識や慣習が数多く存在しています。
それにより、施設経営が難しくなっているような面も否定できません。
経営難に陥った際、真っ先に行われるのは人件費削減ですから、こうした面もまた人材確保という目的に対しマイナスに作用します。
例えば、一般企業の営業は売り上げを上げればインセンティブがつくことが多いと思います。
また、売り上げを上げ続けるスタッフは組織から評価を受けてどんどん立場が上がり、人材教育などにも携わるようになっていきます。
スタッフはそれをモチべーションとして、はりきって営業を行うわけです。
このように、一般企業であれば営業職に対しインセンティブがあったり、スペシャリストが高待遇で迎えられたりすることは、何も特別なことではありません。
一方、介護の世界はどうでしよう。
介護業界では、要介護度1〜5のうち、重度である5の利用者を介護したほうが介護報酬が高いため、ベッド数が決まっている特別養護老人ホームのような施設であれば、介護度の高い利用者が多いほうが効率よく収入を得られます。
しかし、実情としては、介護度が高いほど一人の利用者に対するマンパワーが必要になるため、より多くの人を雇わねばなりません。
1人の介護職員が提供できるサービスの質と量には、物理的な限界があるのです。
仕方ないので、人を雇うわけですが、その結果人件費は嵩み、利益が薄くなります。
介護ビジネスの矛盾
国の方針として「利用者の介護度を下げることを目標にする」ということがあります。
利用者のことだけにフォーカスを当てれば、確かにそのほうがいいのです。
しかし、施設側からすれば、手をかけ、労力をかけ、残業をいとわず必死に働き、ようやく介護度を下げることができたとしても、経営的には介護報酬が下がり、収入が下がってしまいます。
いわば、利用者に尽くし、いい結果を出せば出すほど収入が下がってしまうのです。
経営的にいえば、金銭や評価といった、通常は働く側のモチべーションを左右することにつながる手法が、まったく使えないことになります。
行政が示す理想は、確かに間違ってはいませんが、業界の歴史が浅いこともあって、その受け皿となるシステムが未熟さをはらんでおり、それが経営的矛盾を生んでいることも事実なのです。
まとめ
このような実態が、「男性の離職率」や「若者不足」を招く結果となっていることは疑いの余地がありません。
介護ビジネスに競争原理やインセンティブを持ち込み、本当の意味でのビジネスにできたとき、多くの問題が解決できることになると思われます。

