人材不足が深刻な介護現場の実態
入居者が個室で暮らせるユニット型施設であり、設備も真新しく、オープン前から話題になっていた特別養護老人ホーム。個室は全部で100室、70人の職員がケアにあたる予定で計画されていました。
しかし、オープンして半年たってもまだ40室が空室の状態。これでは当然、利益は上がりませんので、苦しい経営状況になっていることが予想されます。
利用料金が比較的安い特別養護老人ホームということもあり、この施設には入居希望者が殺到しています。待機者は200人以上いるにも関わらず、40室以上が空室で、経営が苦しいのはなぜでしょうか。
実は、この施設では非常勤職員を含めても50人ほどの介護職員しか採用できていませんでした。
つまり職員が不足しているために、入居者を受け入れられない状況に陥っているのです。
このように、計画した人数が採用できないために、新たな入居者の受け入れをやめたり、部屋の一部を閉鎖せざるを得ない特別養護老人ホームは少なくありません。
2014年に行ったある調査によれば、特別養護老人ホームの約半数が「職員数が定数に満たない」と回答しています。
中には、国の基準で最低限必要とされる職員数すら確保できない施設もあったといいます。
また、厚生労働省の2021年の調査では、介護職員の有効求人倍率は全国平均で2倍を超えており、東京都が4,34倍、愛知県が3,96倍、大阪府が2,77倍など大都市を中心に高い傾向にあります。
この数値からも、人手不足に悩まされている介護施設が非常に多いという事実が読み取れます。
将来的な高齢者増加を見越して介護施設の建設が相次いでいます。
ビジネスチャンスを拡大するという観点では正しい判断かもしれませんが、それにともなって人材不足という業界の慢性的な問題が、より深刻になって顕在化しているのが介護業界の実情なのです。
介護現場の人手不足の原因
そもそも介護施設は貧弱な社会福祉制度の下で生まれたものであるため、いかに限られた数の介護職員で必要とされる膨大な介護サービスを提供するかが重大な課題となっているのです。
いわゆる「慢性的な人手不足状態」が前提の制度であり、介護職員の疲弊ありきの制度と言ってもいいでしょう。
その上、少子高齢化と税収の不足により、介護を取り巻く環境は年々厳しくなっています。
このままでは、介護職の待遇はもっと悪化する可能性すらあるのです。
そうなれば、介護職を目指す人が減り、さらなる人手不足になり、増々現場は火の車になります。
そして、その重労働に耐えかね、どんどん人が辞めていく。この悪循環に陥っていくことは明白です。
介護業界の人材確保は社会的急務
介護業界の人手不足は、施設経営の観点だけでなく、社会全体としても対策が急がれる課題です。
日本は世界に類を見ない超高齢社会を迎えようとしています。
2025年には、4世帯に1世帯の世帯主が65歳以上の高齢者世帯になり、75歳以上の後期高齢者の人口も2179万人に達し全人ロの18%を占めるまでになるという統計が出ていますし、高齢者の割合が劇的に髙まっていくことは動かしようのない事実です。
当然ながら高齢になるほど要介護者は増えていきます。
東京圈では10年後には入院患者が20%増え、介護施設の入所者も45%増加することが見込まれています。
しかし、今でさえ東京圏の特別養護老人ホームの待機者は多く、2014年の調査では東京都で約4万3000人、神奈川県では約2万9000人です。
介護業界の人手不足が解消されなければ、待機者はさらに増えていくでしよう。
また、介護施設を利用できずに病院のベッドに入る高齢者も増えるため、病院の入院機能がマヒし、救急車が患者をどこにも運べないというような二次的な問題も起きかねません。
このような背景を踏まえて、2025年までに新たに80万人もの人材を確保できなければ介護業界はパンクするというのが、厚生労働省の見解です。
しかし、今後は介護業界の将来を担う若い働き手の確保が、ますます困難になっていきます。
ある調べによれば、2025年の労働力人口は6310万人と、2013年の6577万人から367万人も減ってしまうことが予測されています。
人口減少に伴い、労働者全体のパイが減るのですから、各産業、各企業間での人材の取り合いが激化することは必至です。
介護業務は、以前から3K(きつい、汚い、給料が安い)などと揶揄されてきましたが、このような背景があるので、目標とされる80万人の人材を確保することは困難であろうと言わざるを得ません。
人手不足によって介護業界が介護サービスを十分に提供できなくなれば、要介護者自身が困るだけではなく、その家族の介護負担が増大し、仕事と介護の両立を図ることが困難になります。これは日本の経済にとっても大きな損失です。
介護業界の人材確保はもはや待ったなしの社会的課題であるといえますので、介護という仕事の本質である「やりがい」「喜びと感動」、そして「対人援助職のクリエィティブな側面」にもっと光を当ててィメージを変えていかなければなりません。
介護業界の人手不足がより一層深刻化していけば、高齢者を支えていかなければならない日本の社会、そして経済はどんどん疲弊していってしまうでしょう。
困難な在宅介護への移行
これから高齢者は増え続け、介護サービスの必要性は高まっていきます。
しかし、だからといつて闇雲に介護施設もまた次々と増やしていけばいいというわけではないのです。
いくら施設を増やしても、肝心の介護を担う人材の確保が困難になっていくことは、紛れもない事実なのです。
このような中、国は在宅介護への移行を推奨していますが、それも簡単ではありません。
介護という仕事を知るほどに、在宅介護の難しさを痛感します。
足腰が立たなくなったときの排泄の世話や、重い認知症患者のケアなどは、やはり素人が家で行うには限界があります。
施設を利用するより介護費用は抑えられるかもしれませんが、その分ケアにあたる人が拘束される時間が長く、夫婦で親の面倒を見るような家庭であれば共働きなどが難しくなるでしよう。
実際に、介護を理由に離職せざるを得ない人も多く、経済的な面でも、心身の面でも負担が増えてしまっているケースが散見されます。
また、訪問介護などのサービスを利用するにしても、常駐してくれるわけではありません。
介護サービスに頼りっきりで、膨大な費用を支払うくらいなら施設を利用したほうが合理的な場合もあります。
在宅介護への移行は、現状としてはそこまで機能しないのです。
個人的には、ヨーロッパで行われているように、地域包括支援システムを構築すべきだと考えていますが、何より、ハードウェア、ソフトウェア、ヒューマンウェアの三つで考えたときに、ヒューマンウェアが整備しきれていませんので、介護業界では人材確保に加え、そこにいる人材のクオリティ、そして介護の専門性を高めることも同時に行う必要があることは言うまでもないのです。
介護施設の日課表
介護と取り巻く根本的な環境を大きく改善することは難しい。
でも、現場レベルの改善であれば自分達でもできる。
そこで、これをなるべく改善するために生まれたのが介護職員の日課表であり、介護職員が効率的に介護するために介護業務の流れをまとめたマニュアルなのです。
もし、介護施設の転職を検討しているのであれば、この日課表の有無がその施設を判断する上での1つの指標になるかもしれません。
日課表がある介護施設であれば、業務が効率化されている可能性が高く、介護職員への負荷が軽減されていると考えられます。
日課表とは介護施設が利用者に対して提供する介護サービスを時間ごとに列挙したものであり、介護職員に対して決められた時間に決められた介護サービスを提供することをわかりやすく示した一覧表のことです。
この日課表の形式は特に決まりがありません。
そのため、それぞれの介護施設でその様式は大きく異なっています。
介護職員の勤務帯によって15分間隔で介護職員の動きが記入できるようになっているものがあったり、シフトことにやるべきものが大ざっぱに書いてあるようなざっくりしたものまであります。
これまでの介護施設では、この日課表に従って利用者が画一的に介護されていたという面があったことは否めないでしょう。
そのために利用者一人一人の個性を尊重したきめ細かい介護ができるようにと、この日課表を見直す動きがあることも一方の事実です。
しかし、介護職員の数に上限があり、業務を効率化せざるを得ない面もあったのです。
経営的に見れば、いたずらに介護職員を増やすことはできません。
そのために一人一人の個性を尊重した、きめ細かい対応ができるかといえば必ずしもそうではありません。
介護職員の労働効率から、完璧な介護を求めるのは無理があるのです。
やはり、ある程度はまとまった画一的な介護せざるを得ないというのが現状ではないでしょうか。
介護現場の人手不足を解消するには
ただし、この日課表の使い方によっては、介護の質を大きく改善できる可能性があると思われます。
例えば、あるシフトの中で介護職員が何名勤務しているか。
そして、提供する介護サービスは何なのかを徹底的に追求していくとなると、その介護業務の作業量がどれくらいで、それを担当する介護職員が何人必要であり、それによって本当に行き届いた介護サービスが提供できるかという基準作りのたたき台になるということです。
もし、計画通りに介護サービスが終わらなければ、介護職員の人数に比べて作業量が多すぎるのかもしれません。
あるいは負荷のかかる介護サービスにおいては、もう少し職員の数を増やして対応するべきではないかといった議論ができる素地が完成するのです。
今では、ITツールが多く出回っているので、介護職員の労働生産性を簡単に把握することができるでしょう。
ただし、注意も必要です。
介護現場に「効率」を過剰に持ち込むと、介護本来の意味を見失いがちになります。
効率を優先するあまり、血の通わない介護を提供することになるのであれば、それは本末転倒です。
あくまで、介護の意味を考え、なにを優先すべきかを忘れてはいけないのです。
このように介護職員の日課表については賛否両論あり、現場での複雑な事情が絡んでいることから、その本当の評価がなされているとは言えない状況です。
ただし、この日課表を正しく使って介護業務の中にある「無理」「ムラ」「無駄」を炙り出すことができれば介護現場の改善に大きく寄与することは言うまでもないことです。
また、利用者の要介護度が変化して施設全体で業務量が増える判断できる場合には、この日課表を利用してより具体的な計画を立てることができるようになると思います。
このように日課表を使って介護サービスの充実を図り職員の負担を減らすことができれば、働く人にとっても入居者にとってもどちらにもメリットがあると言うことになるのではないでしょうか。
効率的であり、かつ介護サービスの質を上げるためにはこの日課表の活用がとても重要になるはずです。
自分でできる介護の人手不足対策
このように、介護業界の人手不足は、構造的なもなので、個人で解決できるような課題ではありません。
外国人労働者を入れたり、ロボットを導入したりと、経営者は努力をしていますが、根本解決には至っていないのが現実です。
しかし、働きやすい環境を用意することで、十分な働き手を確保している人気の介護施設があるのも事実です。
もし、あなたが人手不足による多忙感が疲労してしまっているなら、働きやすい環境に移ることも視野に入れるべきかもしれません。
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相談は完全無料なので、リスクはありません。
大手企業なので、個人情報の漏洩などの心配もいりません。
働きやすい環境に移ることで、精神的な余裕を手に入れつつ、さらに場合によっては給料などの待遇もアップする可能性もあります。
現状に甘んじることなく、まずは一歩を踏み出してみる勇気を持ってみてはいかがでしょうか。
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