人間関係
介護士の世界は一種独特なので、他の業界の常識が通用しない面はあるかもしれません。
「合理的にお金を稼ぐ」という発想がなく、奉仕こそが唯一のサービスだと考えられているため、いい意味でも悪い意味でも向上心が少ないので、特にサラリーマンの常識は通用しない独自の世界であると言ってもいいでしょう。それが介護業界の実態ではないでしょうか。
具体的に言えば、とても古い体質で個人主義がはびこっています。もちろん、表向きは「チームワーク」や「コミュニケーション」が叫ばれます。
しかし、チームとして機能しなければいけない場面が多いにも関わらず、個人個人の考えが優先されてまう場面も多々在り、介護施設全体としてのまとまりがあまり重視されません。
志が高く多くの人の役に立ちたいと考えているような優秀な介護士も多いのですが、女性が多い職場であるが故に女性特有の感情論が前面に出てきてしまい理論的な話が通用しない面があるのは否定できないでしょう。このように、ちょっと面倒くさい点もあるのです。
そのため、新たな提案(改善案)はなかなか受け入れられず、過去の悪習と決別できない面があります。
介護現場において、これまでと違ったやり方を提案すると、反抗的な態度と解釈され、仕事がやりづらくなってしまうのです。
人の命や健康を扱っているため、できるだけ、これまでのやり方を変えたくない。もし、やり方を変えて、なにかあれば自分の責任になってしまうと考え、どうしても考え方が保守的になってしまうのです。
それは管理職や経営者に対しても同様です。業務を効率化し、よりよいサービスを提供したいと提案しても、「楽をしようとしている」「うちの介護のやり方を否定する奴」というレッテルを貼られ、評価を落としてしまう場合があります。
介護現場は、このような硬直した組織になっているケースが多く、正しいことを正しいと言えない雰囲気があるのです。
さらには、組織運営上の問題もあると考えられています。
介護施設への入職順で序列が決まるので、決して年功序列が重視されません。そのため、年上の上司や年下の部下ができてしまい、コミュニケーションがうまくいかない面もあるでしょう。
「年齢はあまり関係ない」と言えば、フラットな組織がイメージされ、とても聞こえがいいのですが、実はそれにより人間関係がギクシャクしてしまい、会話もままならず、陰口ばかりの悲惨な状況が生まれてしまうのです。
これが介護現場を複雑にしてしまっているのです。
このような状況に疲れ果て、介護職を辞めてしまう人が多いのです。
特に優秀な介護職員ほど辞めてしまう傾向にあるので、残された人達で回していく介護現場はパニックになります。それなら、優秀な人を引き止めておき、辞めさせるんじゃなかった・・・と言っても後の祭りなのです。

給料
肉体的、精神的にキツイ仕事の割に給料は安いといわれているのが介護士です。一般的な介護施設の給与モデルであれば、おおむね年収は250~300万円といったところではないでしょうか。
「他人の下の世話までするのに、全く割に合わない」と考える介護士も多いと思われます。
ただ、これは国の予算と大きく関係しています。高齢化が進み、社会保障費が増大しているため、介護報酬を点数制にするなどして、極力コストを抑制しようとしています。当然、介護職員の報酬も低く抑えられるわけです。
介護施設の収入は各自治体から支払われる介護報酬に大きく依存しています。
また、介護施設に収容できる入所者数の上限が決まっているので、自ずと売上・利益には上限ができてしまいます。そのために企業努力によって売上を積み上げるのが難しく、結果として、「コスト=人件費」を抑制しなければならないという構造になるのです。
また、介護施設には施設設置基準という人員配置の定数があるので、これを下回ることができません。そのため人員削減をして一人当たりの給料を高くしていくことが、事実上できないのです。
このような背景のため、どの介護施設でも給与に大きな差はありませんが、最近では正しい評価制度を導入し、介護職員の待遇を見なおそうとする介護施設も増えてきています。国の介護報酬があまりにも低く、これでは優秀な人材の確保が難しいとの判断からでしょう。
しかし、社会保障が国家財政を圧迫しているのは事実であり、これ以上の税金投入は期待できないと思われます。
とはいえ、今後は国も何らかの対策をしていくと思われますし、施設自体も従業員を確保する必要から、なんとか待遇を改善しようとする動きが見えてきています。
そのため、今後は、今の介護施設を辞めて、より待遇の良いところへ転職するという選択肢が考えられるようになると思います。
特に先進的な経営モデルを標榜し、しっかりと売上を上げている介護施設であれば、介護士への給与も見直されるはずです。
そうなれば、今の介護施設を辞めて、転職という選択肢もよりリアルになってきます。少なくても今後は、これまでのように辞めることもできない状況は改善されるのではないでしょうか。

ボーナス
介護士のボーナスは、平均して「1~2ヶ月」ではないかと思います。
ボーナスが出ればまだ良い方で、雀の涙ほどしか出ないという介護施設もあれば、これまでボーナスなんてもらった経験がないという介護職員もいるのではないでしょうか。
もちろん、もっともらえるところもあるでしょうが、多くの介護施設は満足のいくボーナスを支払っているとは言えない状況かもしれません。
多くの介護施設では、就業規則の給与規定に賞与の定めがあると思います。もし、就業規則の中にボーナスの規定があるにもかかわらず、これまでボーナスを貰ったことがない場合には、まずは就業規則の確認をオススメします。
しかし、稀に就業規則が未整備の施設がありますので、そういうところは要注意です。ボーナスばかりでなく、残業代や有給取得も適当になっている可能性があります。
また、就業規則があっても、実際は無いに等しい状況の介護施設もあるかもしれません。要は経営者の気分1つでボーナスの有無やその金額が決定する「ワンマン経営」の介護施設の少なくないかもしれません。
介護施設におけるボーナスとは、一般企業などに比べると、未整備と言わざるをえません。
そのため、ボーナスに不満を持ってしまう介護職員が多いのも無理は無いかもしれません。
ボーナスの有無やその金額によって、年収ベースで大きな違いが出てきてしまいます。まして、その状態が何年も続くようであれば、生涯賃金は決定的な差をもたらしてしまうかもしれないのです。
そのために、介護士を辞める人が多いのも事実なのです。

残業代
介護労働安定センターの「介護労働実態調査」によれば、半数の介護施設は残業がないと報告されています。
果たして、これは本当でしょうか?
慢性的な人手不足の続き、仕事はさばききれないほどある状態の介護の現場において、残業してない介護施設が半数もあるなど、ちょっと信じがたいです。
つまり、この半数の残業がないと言っている介護施設は、単に残業代を支払ってないだけかもしれません。残業をさせているにもかかわらず、残業代を支払っていないため、統計上は残業がないことになっているのです。
介護現場では、業務時間外の会議や就業時間直前の仕事の大量押し付けなどがあり、定時になっても帰れない場合があると思います。仕事ならば仕方ないと諦めもつくのですが、問題なのは残業代が出ないという事実です。
介護業界には「残業代の要求は悪」という風潮があると言われています。
サービス残業は頑張ってる証拠であり、サービス残業を率先して頑張ってる人こそが認められる環境があります。
また、定時内に仕事が終わらないのは、本人の能力が劣っているという考え方が定着しており、介護職員も経営者側も残業を認めない風潮がはびこってしまっているという問題もあります。
要は、介護の目的は、貢献であるため、お金を忌まわしいものと捉える誤った考え方が定着してしまっているのです。
特に、管理職になる年代に、この考え方が蔓延している場合、残業代の請求が憚られるようになるかもしれません。
しかし、雇用契約を結んでいるので、労働基準法に従い適切な残業代の要求は全く間違えていないのです。当然、正当な行為と言えます。
でも、現実にはサービス残業ばかり・・・
タダ働きが嫌で辞めてしまう人も多いのではないでしょうか。
確かに、一生懸命頑張っても、正当に評価してもらえないなら、辞めたくなるのもわかります。
この不満から、退職を決意する人も一定数はいるはずです。

夜勤
介護職の大変なところのひとつは「夜勤」ではないでしょうか。多くの施設は、日勤、早出、遅出、夜勤などのシフト制になっている場合が多いと思います。
夜勤には十分な職員が配置されていない場合があります。夜中のおむつ交換に、2時間おきの体位交換+パット交換、徘徊見回りに、コールの連呼・・・
目の回るのような忙しさです。
この夜勤の負荷のために、職員がどんどん辞めていってしまい、自分の担当する夜勤が増え、結局自分も体調を壊して辞めざるを得ないというケースも多いのです。
そして、日勤や夜勤を何度も繰り返すうちに、体内時計が狂い、健康を害してしまうこともあるでしょう。
そのために、介護職員を辞めてしまう人も多いのです。
新卒でも同様のシフトになる場合が多いと思います。そのため、慣れないうちは心理的負担が大きく、「うつ病になりそう・・・」という方も多いのではないでしょうか。
仕事に不慣れな新卒職員が責任の重い夜勤を担当するのは、やや酷かもしれません。
この夜勤が嫌で、辞めてしまう新卒職員も多いのです。
このように、夜勤の大変さはやってみないと分からないと思います。
夜勤で体調を崩さないようにするには「寝だめをしないこと」が重要との意見がありました。また、夜勤明けに朝食を取るというアドバイスもあるようです。
とにかく、夜勤の負担で介護士が辞めてしまっては、介護士にとっても、施設側にとっても不幸です。
なんとか介護士の負荷を軽減し、退職者を減らす施策が必要になるでしょう。

いじめ
特に新人職員へのイジメは通過儀礼みたいなもので、多かれ少なかれ、どこの介護施設でもあると考えて間違いないでしょう。
介護士は女性が多い職場です。同性同士だと足の引っ張り合いが激しくなります。特に気の強く負けん気の強い人がいると、それだけで職場の雰囲気が悪くなるでしょう。
さらに、介護士は誰もが多かれ少なかれストレスと抱えています。その発散のために、気の弱い職員や無知な新人を中心に標的を作り、些細なことで重箱の隅をつつくのです。
そして噂を広め、相手を無視し、居心地を悪くするなどして、エクスタシーを感じるのです。まったく子供のいじめのようなやり方です。大人げないと言うほかありません。
お給料もらって仕事をしている以上、好き嫌いを言わずにベストを尽くすべきだと思いますが、そう考える人が全てとは言えないのです。
介護現場は、老若男女問わず、いろいろな人が働いている特殊な環境でもあります。それだけに、一般の企業と比べて、好き嫌いが発生しやすく、派閥ができやすいのかもしれません。全くくだらないと思いますが、介護現場のいじめがなくなることがないのかもしれません。
職場では、まず仕事内容を正しく習得し、慣れることがなにより大事になるので、一人前として認められる前は、相手の言いなりになるしかない苦しさがあります。
しかし、一通り仕事を覚えてしまえば、余裕が出てきて相手のいじめにも冷静に対応できるようになるのではないでしょうか。
職場に慣れるまでの間にいじめがあった場合、「こんな職場、辞めよう」と思うなら、それまでかもしれません。
それも1つの選択肢です。
しかし、「今は早く仕事を覚えて、もっといい介護が提供できるようになろう」と思えるようになれば、あなたは間違いなく成長できるはずです。「いじめたい人は、所詮そのレベルの人間だ」と思い、我慢できるかどうかがポイントになるでしょう。
気持ちの持ちよう次第で、辞める気持ちを思いとどまれるかもしれません。

看護師との連携
看護師と介護士では、看護師の方が上位資格だというような誤った考え方をする人がいます。このために、両者の関係がギクシャクすることも・・・
介護現場で働く人ならご存じだとは思いますが、医師、看護師、介護士はあくまで同じ立場です。一体となって最高の介護を提供することが役割です。
もちろん、仕事内容が類似し、一部は重複しているので、役割の混同も多いと思います。
しかし、それぞれには明確に与えられた役割があります。そこに上下の関係はありません。
あるのは、利用者や入居者に対して、「元気になってもらいたい」「健康で毎日を過ごしてもらいたい」という目標だけです。ここさえ共有できれば、立場の違いなどないはずなのです。
ただ、看護師も激務のため、イライラし、命令口調になってしまう場合もあるでしょう。また、病院では使えなかった、プライドだけが高い看護師が介護現場に入ってくることがあります。
そうなると大変です。能力は低いものの看護師としての矜持があるので、人の意見に耳を貸しません。その上、イライラし、介護職員に対して命令口調になれば、どうしても現場での意思疎通が困難になるでしょう。
介護福祉士は介護のプロです。決して、看護師に劣っているわけではありません。
医療的知識は乏しいかもしれないけど、卑屈になる必要はありません。
お互いの意見を尊重して専門性を生かし合うチームワークを醸成することがなにより大切になるのです。
看護師との人間関係に疲れ、辞めてしまうのはもったいないのです。

介護現場での事故
介護現場では大きな事故になりかねない事象が日々発生しているといってもよいでしょう。
いわゆる「ヒヤリハット」です。
ヒヤリハットとは、重大な事故にはならなかったものの、大きな事故に直結する可能性のある事象をいいます。お年寄り相手ですので、「車イスから落ちそうになった」「お風呂で転びそうになった」など、おもわずヒヤリとする場面が多くあると思います。
その度に、肝を冷やし、安堵する。介護士は、毎日、このような思いと戦っていると言えます。
実は多くの介護士にとって、これがとてもストレスになっているのです。
事故の多くは、ベッドや車椅子などからの転落、歩行中や立ち上がりに際しての転倒です。
次に多いのが、食べ物を喉に詰まらせたり、誤嚥によって肺炎などを併発するというもの。
さらに、体位交換などの介助を行なっている際に、利用者を骨折させてしまったり、皮膚を傷つけたりという、いわゆる「介護ミス」もあります。
いずれも、場合によっては命に関わる極めて重大な問題です。介護士は、日々、人命の重さに直面し、その責任の中で働いています。
介護士による不祥事がニュースとなって世間を騒がすことも多くなっています。介護施設は当然不祥事に敏感になります。何かあれば介護施設の経営が行き詰まってしまうことは明白だからです。
そのために介護士にも責任を持つよう口が酸っぱくなるほど注意をしてくるはずです。
何か事故が起きれば自分のせいにされるかもしれない。
問題が起これば自分の立場が危うくなるかもしれない。
介護士は常にこのような危機感を持ちながら日々の業務を消化しているのです。
そのため、その重責から、自分の精神が維持できず、辞めてしまう方が多いのです。
