介護業界で働く
介護業界で働くといっても、いろいろな業態があり、またその中にはいろいろな会社があります。
その施設数は、全国で12万5千を超えるので、それぞれの職場で環境は大きく異なるのです。
他の施設を知らない人は、今の職場が自分に合っているのかという判断ができないでしょう。
また、介護業界全体についての理解が浅い場合は、そもそもどんな種類の施設形態があるのかも把握できていないかもしれません。
さらに、業態の名前だけは聞いたことはあっても、実態は知らないという方も多いと思います。
そこで、介護業界を俯瞰しながら、それぞれの特徴をみていきましょう。
特別養護老人ホーム(通称:特養)
特別養護老人ホームは「従来型特養」と「ユニット型特養」に大別されます。
従来型特養
グループケア(10~20人を1単位)を取り入れている
夜勤人員基準は利用者25人に対し1名配置
入浴日時が固定化されており、介助者も業務分担対応が主流
夜勤回数は4~6回/月程度
業務内容
介護職員1人当たりの負担は比較的軽い
他職員が近くにいるため、1人介助が難しい場合にも対応しやすい
残業がほとんどなく定時で帰れるケースが多い
業務がルーチン化されているケースが多く仕事が覚えやすい
職員で助け合いながらの業務が可能
他の施設にくらべ巡視がしやすい
シフトごとにやる業務内容が明確
夜勤は入り・明け・休みのサイクルが主流
比較的事故リスクが低い
給与・福利厚生
平成27年度の平均月収は194,200円
賞与などの福利厚生面が充実している事業所が多い
スキル・キャリアパス
介護技術のスキルアップが可能
未経験者が安心して働ける
いきなり多くの仕事を任される可能性は高くない
ユニット型特養
2006年度から正式スタートした比較的新しい施設形態
夜勤人員基準は2ユニットで1名
ほとんどが個浴対応で誘導から洗身まで1対1対応が主流
夜勤回数は4~5回/月程度
准夜勤体制も多く、夜勤の業務負担が少ない
給与・福利厚生
平成27年度の平均月収は194,200円
スキル・キャリアパス
多くの経験が積める
フロアリーダーやユニットリーダーなど、出世ポストが多い
介護老人保健施設(通称:老健)
特養と同じようなイメージを持たれる介護老人保健施設ですが、細部に以下のような違いがあります。
病院と在宅の中間施設として位置づけ
デイケアが併設されていることが多い
夜勤人員基準は、ユニット型は2ユニットにつき1名、従来型は40名以下は1名、41名以上は2名以上配置
夜勤者のうち看護師を配置している施設は約8割
常勤医師が常駐
看護+介護の配置基準は3:1以上
うち看護:介護の割合は2:5
PT、OT、STの配置が義務
業務・ケア内容
特養よりも軽度の方が多い
在宅復帰を前提としているため自分のことは自分でということに前向きな利用者も多い
看取り介護ではないため、精神的負担は少ない
リハビリに注力している
給与・福利厚生
平成27年度の平均月収は227,000円
賞与が手厚いなどより福利厚生面が充実
特養と比べ夜勤手当が高い
制服がある
スキル・キャリアパス
医療ニーズが高く、医療知識を習得しやすい
PT・OT・STなど他職種との連携
入退所の回転率が高いため、多くの症例に関われる
医者、看護師などの医療従事者の配置が手厚い
急変時および夜間帯の安心感がある
働く介護事業所を正しく選ぶポイント
新卒として介護業界に就職する場合でも、中途として転職する場合でも、介護サービス事業所選びにおいては、必ず、次の3つのことを行いましよう。
中途半端な選び方をしてしまうと、また転職活動をしなければいけなくなってしまいます。
後悔しないように、しっかりと働く場所を見つけてください。
①事前に調べておくこと
介護業界は総じて人材不足です。
しかし、人材不足だからといって、誰でも採用してくれるわけではありません。
特に、現代の高齢者介護はチームケアです。介護の仕事に誇りを持っている人、介護のプロになりたいと努力している人は「他に仕事がないので介護でも…」というような人と一緒に働きたいとは思わないでしよう。
これから初めて介護の仕事をする場合でも、介護の資格にはどのようなものがあるのか、介護保険はどのような制度なのか、特養ホームとはどのような施設かということくらいは、調べれば簡単にわかるはずです。高齢者介護の仕事に本気で取り組もうと考えているのであれば、当然のことです。
合わせて、介護サービス事業所の情報を得ておくことも必要です。
何も調べずに行くと、面接の際、一方的に質問されるだけになりますが、調べていくと「新人の教育体制」「キャリアアップ」「資格取得のバックアップ体制」などについて質問できます。
最近では、管理者や経営者、スタッフがブログやSNSで意見を発信するところも増えています。その人の介護に対する意欲や考え方、能力がよくわかります。
「給与が低い」という意見は多いのですが、給与や待遇を聞かないまま働きはじめるわけではないでしよう。
介護福祉士の資格手当もゼロというところから、月2万円~3万円のところもあります。
また、経営状態によって賞与の水準には、数万円から基本手当の2か月~3か月と大きな開きがあります。
これも、前年度の支給状況などを確認すればわかることです。
②複数の事業者から選ぶこと
同じ介護スタッフといっても、特養ホームやティサービス、グループホームなどによって、その業務内容や勤務形態は違います。
特に初めて介護の仕事をする場合は、どのような仕事の内容なのかを、確認することが必要です。
また、法人、事業所によって働きやすさやリスク、新人の教育体制はそれぞれに違います。
「介護スタッフの募集だけれど、将来は相談員になりたい、ケアマネジャーになりたい」といった希望がある場合は、実際にどのようなサボートがあるのかも確認しましよう。
できるだけたくさんの管理者、介護の現場で実際に働く先钺スタッフと話をすることも、介護業界を知る上で大切なことです。
この業界には、仕事のやりがいや厳しさ、未来について、誇りをもって熱く語ってくれる人がたくさんいます。
多くの地域で、介護や福祉の事業者が集まって、就職フェアが行われていますし、職業体験を実施している事業者もありますので、これを活用するのもよいでしよう。
③面接時には見学すること
ディサービスや介護保険施設、高齢者住宅では、必ず見学をしましよう。
これから毎日その事業所で働くのです。どんな人が働いているのか、どのような利用者、入所者がいるのかを事前に知るのはとても重要なことです。
書類や写真だけでは、その事業所の雰囲気はわかりません。
電話の応対も気持ちよく、働いているすべてのスタッフが「こんにちは」と気持ちよく挨拶してくれるところもあれば、「こいつは何者だ」「新人が来るのか」といった目で見られるところもあります。
ユニフォームが汚れている、靴の後ろを踏んでだらだら歩いている、利用者に対する言葉造いが乱暴といったスタッフが目に付くということは、基本的な教育や研修さえできていないということです。
「スタッフルーム内が乱雑」「カレンダーが1か月前のまま」「共用のリビングが整理されていない」というのも同様です。
要介護高齢者は、自分から意見や要望を伝えることが難しくなりますから、介護スタッフ自らが小さな異変や困りごとに気づいて、サボートすることが必要になります。
飾られた絵の額縁が曲がっているのに、誰も気が付かない、誰も直さないというのは、介護の質もその程度だということです。
勝手に歩き回ることは好ましくありませんので、必ず「見学させてください」と断ってから行いましよう。自信があるならば、見せてくれるはずです。
働く事業所によって、介護労働者の未来は決まる
優良企業というのは、資本金の規模や収益性を指すのではありません。
顧客の満足度だけでなく、社員、職員の満足度も高い企業のことです。
1つの事業所でしか働いたことがないのに「介護の仕事には未来がない」という人は「どの事業所で仕事をしても同じ」だと思っているからです。
介護業界は玉石混淆だと言われますが、それはサービスの質だけに当てはまる言葉ではなく、労働環境も同じです。
また「介護の仕事は大変」というのはどこでも同じですが、やりがいのある大変さなのか、リスクのある大変さなのかは事業所によって違います。
介護業界も玉石混淆から、2極化に進んでいます。
「介護の仕事に未来があるか、ないか」ではなく、どのような事業所で、どのような目的をもって働くのかによって、5年後、10年後の未来は、天と地ほどに大きく変わってくるのです。