介護市場は年々拡大する
高齢者介誰の仕事の将来性はポジティブだと言えるでしょう。
その理由の一つは、確実に需要が高まるということです。
団塊の世代が七五歳以上の後期高齢者になるのが2025年です。
2035年には85歳以上の人口は、現往の2倍の1000万人を超え、2060年頃まで高止まりしたまま推移します。
75歳以上の要介護発生率は23%ですが、85〜89歳では50%、90歳以上では70%を超えます。
年齢が上がれば、重度要介護の発生比率も高くなるため、常時介誰が必要な重度要介護高齢者の数は、現在の2倍以上に膨らむことになります。
要介護高齢者が要介護高齢者を介護する「老々介護」、認知症高齢者が認知症高齢者を介護する「認々介護」が社会問題となっていますが、超高齢社会の介誰問題が本格化するのは、まさにこれからです。
また、高齢者介護は国内限定の労働集約的な仕事です。
介護が必要になれば、人件费の安い東南アジアなどの海外へ移住するという人もいますが、言葉や生活習惯も違いますから、海外勤務が長く、その生活環境に慣れているなど一部の人を除き、一般的ではありません。
また、ベテランの介護スタッフだからといって、一人で何台もの車いすを押すことができるわけではなく、それが優秀な介護技術でもありません。
要介護高齢者の増加、介護需要の増加に比例して、介護労働者の増加が必要です。
介護職の優位性
介護職の需要が高まる理由として、ロボットやAIなどに代替することは難しいということがあげられます。
「要介護ニ、脳梗塞で右半身麻痺、排泄自立、自走車いす使用」といった同じような要介護状態であっても、個々の生活環境、希望によって、一人ひとり介護・生活支援の内容は異なります。
介護には「一般的な回答」はなく、どれだけデー夕を集めても、AIが自動的に最適なケアブランを作れるわけではありません。
サービスの実施記録や利用情報の共有はコンピユー夕化が進みますが、家族や本人の感情を共感、受容しながら、個別に聞き取りを行うことは人間にしかできません。
高齢者の介護はロボットにはできない
また「将来はロボットが介護する」という人がいますが、それは早計です。
確かに、介護ロボットの技術は目覚ましい勢いで進化しています。
今でも、を使って徘徊高齢者を早期に発見したり、センサーによって体調の急変や転倒を知らせたりすることもできます。
口頭指示やIoTを使って、ベッド移乗や移動ができる車いすが開発されれば、交通事故などで下肢を切断した若年層の身体障害者の生活は便利になるでしよう。
しかし、要介護高齢者は日々の体調によって要介護状態が大きく変化しますし、判断力の低下や認知症の問題もあります。
体調の変化に合わせて、自ら考え、きめ細かく臨機応変に、かつ安全に介助できるような介護ロボットができるのは、遠い、遠い未来の話です。
介護職の専門性
これに付随して重要なことは、介護は専門職だということです。
多様な要介護状態、個別の生活希望を持つ高齢者に対応するためには、認知症や疾病、高齢者の身体機能に関する深い知識、安全に介助を行うための高い介護技術が必要になります。
特に、日本の介護知識や技術は「ケアマネジメント」「個別ケア」を中心に目覚ましいスピードで発展しています。
介護福祉士、社会福祉士などの国家資格を持っていれば、数十年先まで、全国どこでも、働く場所を探すのに苦労することはありません。
待遇が安定している売り手市場
侍遇も安定しています。
介護は、国内限定の社会保障制度に立脚したサービスですから、為替や株式相場など短期の経済動向に左右されることはありません。
報酬の支払いを担保しているのは国ですから、サービスを適切に行えば、それに対する収入は必ず支払われます。
また、介護労働者が不足しているということは、労働者が事業者を選べるということです。
介護労働者の働く場所はどこでもありますから、ブラック企業など劣悪な環境や待遇で、上司の横暴や暴言を我慢して、不正や苦痛に耐えながら働かなければならないということもありません。
介護の給与は本当に低いのか
介護職の給与についても考える必要があります。
マスコミなどで「40歳男性の平均年収は、介護労働者と一般会社員を比較すると100万円以上低い」などというデー夕が示されることがあります。
これを聞いた人は「高校や大学を卒業して、同じように40歳まで働いて、年間100万円も給与が低いのか。介護の仕事なんて、とてもできないよ」と思うのは当然です。
しかし、それは「まるっきり嘘」というわけではありませんが「介護の給与は低い」ということを過度にアピールするために、あえて取り出したデー夕です。
厚生労働省から出されている「平成27年度介護従事者処遇状況等調査結果」と「平成27年賃金構造基本統計調査」を整理・比較すれば、その実態がわかります。
勤続年数の違い
一般的に男性の給与は、40代後半から50代にかけて給与のピークを迎えます。
それは高校や大学を卒業して、同じ企業で十数年働いて、課長や部長などの役職者、責任者となる人が多いからです。
一方、介護保険制度は、まだ20年に満たない制度です。
他の仕事から介護業界に転身した中途採用者が多く、勤続年数5年未満の人が全体の57%、10年未満も含めると80%を超えます。
そのため、同じ40歳と言っても、勤続年数は6年〜8年と他の産業の半分程度です。
仕事を始めて10年未満、5年未満の人の多い介護業界の給与を、年齢と性別だけを無理に切り取って比較しても、正しい分析はできません。
同じ「40代」「男性」を比較するのであれば、少なくとも、同じ事業所で勤続年数が15年程度の人を対象としないと正確ではありません。
残念ながら、その公的なデー夕はありません。
施設種別や法人によっても差があるでしょう。
しかし、周辺を見渡して、福祉系の大学や介護の専門学校を卒業し、15年程度働いて、40代となっているディサービスの管理者や特養ホームの介護主任、施設長から話を聞くと、年収は500万円~600万円が平均的で、それ以上という人も多く、他の業種の同年代の人と比較しても、決して見劣りするような給与、待遇ではありません。
介護の給与は性差、学歴、企業規模に左右されない
性別による差がない
注目すべきは「男女の性差」です。
どの産業においても、20代前半の給与を見ると、男性、女性の性差は大きくありません。
しかし、その後の賃金上昇の力ーブは大きく違い、30代、40代になると、ほとんどの産業で女性の方が男性よりも月額で10万円近く賃金が低くなっています。
これは結婚や出産、子育てなどで離職する女性が多いことや、いまだ昇給や昇格に差があることがわかります。
また、子育てを終えた女性が、もう一度働き始めようとしても、同じような業務、給与、待遇の仕事を見つけることが難しいことを示しています。
これに対して、介護は専門職種ですから、給与や昇給、昇格に性差はありません。
知識や技術を証明する資格や経験、能力によって、給与や待遇が決まります。
介護関連の資格を持っていれば、配偶者の転勤などによって、住所地が変わっても、全国どこでも、その能力を発揮することは可能です。
学歴による差がない
また、どの産業種別においても、大卒や短大卒、高卒などの学歴や、大企業、中小企業などの企業の規模よって、給与に大きな差があります。
しかし、介護業界は、学歴ではなく、資格の有無や経験が優先されます。
特養ホームや通所介護、訪問介護など事業種別によって平均給与は変わってきますが、支払われる介護報酬は同じですから、企業の資本規模によって介護報酬に差がでるわけではありません。
介護職ほど将来性のある仕事はない
介護労働は給与の基準が一般の産業とは根本的に違うのです。
もちろん、いまの介護労働者の待遇、給与が十分だと言っているわけではありません。
産業全体から見ると、平均値として給与水準が低いということは紛れもない事実です。
介護の専門性や實任の重さ、リスクの高さを考えると、十分な介護報酬が設定されているとはとても言えません。
また、示されている介護労働者の給与には、夜勤手当なども含まれており、同一に比較することはできないという意見もあるでしよう。
ただ、介護業界の中にも、マスコミの論調を盲目的に信頼し、介護だけが大変な仕事で、特別、給与が低いように感情的に喧伝している人がいますが、それは間違いです。
営業職であれ、販売業、建設業であれ、どのような仕事でもそれぞれに大変です。
国も、介護労働者不足を補うために、処遇改善には力を入れており、介護報酬が労働者に直接、給与として支給されるように対策をとっています。
これからの労働市場、産業構造の変化を考えたとき、30年、40年後も需要が高まり続ける産業、培った技術や知識の市場価値が下がらない仕事は、そう多くはないのです。