介護現場で必要なのは「リスクマネジメントのプロ」
これからの介護業界で「介護のプロ」として、最も価値が認められる技術、知識、ノウハウは「リスクマネシメント」だと言ってもよいはずです。
リスクマネジメントは施設長やサービス管理者だけに求められるものでもありません。
ヒヤリハットを含め、自分の身を守るために、すべての介護労働者に求められるものです。
リスクマネジメントの向上のためには、重要な3つのポイントがありますので、それを知っておきましょう。
スタッフを巻き込む
リスクマネジメントの最初のステップは「リスクマネジメントは自分の身を守るもの」「一緒に働く仲間を守るもの」という認識を働くすべてのスタッフが共有することになります。
それが理解できていないと「忙しいのに大変」「報告書や委員会は面倒」「私の夜勤の時の事故でなくてよかった」ということになり、対策は前に進みません。
まずは「介護事故」「家族からのクレーム」などテーマを決めて、リスクを思いつくままに、書き出してみてください。
できるだけ多くのスタッフを巻き込むことが必要です。
みんなでワイワイと考えて、そのリスクを一覧にして、それを共有するだけでリスクマネジメント対策は大きく進みます。
「浴室は滑るので手引き歩行は危ないぞ」とわかっているだけで、事故は確実に減らせます。
その次は「後片付けはきちんとやろうよ」「夕オルがなくなったら補充しておいて」という共通点がでてきますから、それがマニュアルになります。
初めから完璧なマニュアルなどできませんから、少しずつ、気が付いたことを見直していけばよいのです。
報告・連絡・相談の重要性
報告.連絡.相談の重要性を理解することです。気が付いたリスクの種を上司に報告、連絡、相談をするというのは、業務上の義務です。
「最近、Aをさんは歩行時にふらつくことがある」
「Bさんの車いすのブレーキが緩んでいる」
「訪問介護の帰り、Cさん家族が不満そうな顔をしていた」
「雨の日のディサービスの送迎時に、Dさんの家の玄関前がすべる」
これらはすべて、事故やクレームの種です。
「これ事故になりそうだな…」「トラブルになりそうだな…」と、すべてのスタッフがリスクに対する感度を高め、そのリスクの種を集めることが必要です。
そうして個別のリスクはケアマネジメントで、全体に関わるリスクはマニュアルで修正していくのです。
そのため、「忙しそうで上司に話しかけられない」「スタッフ間や業種間で人間関係がギクシャクしている」というコミュニケーションに課題のある事業所は、事故やトラブルが起きやすくなります。
「何でも相談できる」「気が付いたことはすぐに報告できる」という、風通しの良い人間関係や組織を作ることが、リスクマネジメントの実践には不可欠です。
きちんと検証する
事業者のサービスの質、リスクマネジメントのレベルが、最も現れるのが「事故報告書」です。
役に立たない有害な事故報告がありますが、そこに欠けているのは検証です。
事故報告書の基礎となるのは「発生状況」「初期対応」「事故原因」「事故予防策」です。
「Aさんが、夜間にベッドから車いすの移乗に失敗して転倒、コールが鳴った」というケースを例に挙げてみましょう。
まずは「Aさんは何をしょうとして転倒したのか」「最後にスタッフがAさんを確認したのはいつか」「コールが鳴った時にスタッフは何をしていたのか」「すぐに駆け付けたのか」「ケガの状態はどうか」などという発生状況を確認しなければなりません。
特に重要になるのは、その時間をできる限り正確に把握することです。
「コールの時間」「駆けつけた時間」「他のスタッフに連絡した時間」「救急隊に連絡した時間」「家族に連絡した時間」がわからないと、状況や初期対応が適切だったのか判断できないからです。
それは、後々裁判になった時にも、対応の正当性を主張する重要な証拠になります。
その上で「頭部打撲の有無は確認したか」「ケガや骨折の有無を確認したか」「その後、急変がないか見守りの回数を増やしたか」と言った初期対応、そして「車いすのブレーキの緩み」「無理な体勢での移乗」などの原因究明を行います。
その上で、家族やケアマネジャーへの連絡、更には事故予防策についての検討や他のスタッフへの周知なども報告書に記入します。
この事故報告書は、事故を発見した、発生させたスタッフが作成するものではありません。
当人では「どうだったかなあ……」と考えながら書くために、主観的な報告や反省文になりがちです。
また、初期対応の課题や原因究明、家族への連絡、全スタッフへの周知などをできる人でないと報告書は完成しません。
事故報告書は、当日の介護リーダーなど第三者が、事故の状況や初期対応の課題、事故原因を関係者から詳しく聞き取り、きちんと検証していくベきものなのです。
これは訪問介護やディサービスでの事故やトラブル、家族からのクレームも同じです。
きちんと検証できる体制が構築されていれば「事故の発生時、発見時に何をすべきか」がわかります。
それは事故発見者だけでなく、検証者にとっても、他のスタッフにとっても、リスクマネジメントの能力向上に大いに役立ちます。
日々発生する小さな事故やトラブルをリスクマネジメントやサービス向上の種にできるかどうかは、この検証作業にかかっていると言っても過言ではありません。
介護のリスクマネジメントは、ますます重要になる
ヒヤリハットを含め、リスクマネジメントのできない事業者は、今後、確実に淘汰されていくことになります。
ただ、それは決められたゴールがあって「これだけやれば大丈夫」「これで完成」というものではありません。
また、一朝一夕に知識、技術、ノウハウが上がるものでもなく、目の前にある階段を1歩1歩上がっていくようなものです。
また、それは利用者だけでなく、一緒に働く仲間を守るものですから、時には一定の強制力を持って行うことも必要です。
ベテラン、新人に関わらず、1人でも「この程度ならいいか」「報告が面倒だ」と考えると、そこから事故の芽が育っていきます。