正しい倫理研修の実施方法
近年、介護現場での事故や不正の報道が増えてきました。
このような事態を招かないよう、介護職員に対する各種の研修も多く開催されるようになっています。
中でも倫理研修の重要性は、広く認められるところです。
一般的な倫理研修は効果がない
倫理教育の内容として「介護職はこうあるべき」とか「介護職ならこれをしてはいけない」との道徳教育的なものでは、効果はなかなか上がりません。
職員に介護職の心得を印刷した読本を配付している介護事業所もありますが、目を通しているスタッフは少ないのが現実だと思われます。
また、現場で介護職員と話していてて驚くのは、「倫理研修なんて受けた記憶がない」と、まったく内容を覚えていないケースが意外に多いことです。
つまり、現場スタッフに、研修内容が実感として伝わっていないのです。
利用者の心を疑似体験する研修
介護職の研修において、身体や認知上の障害を疑似体験するプログラムがよく見られます。
近年では、「認知症高齢者疑似体験プログラム」なども注目されています。
認知症高齢者疑似体験プログラムは、ヘッドフォンとへッドマウントデイスプレイを装着し、映像中の架空の屋内でトイレの場所を探したりするものです。
多くの介護施設でも、いくつかの疑似体験プログラムを導入して、新人研修にあてているのではないでしょうか。
ただし、重要なのは「ただ体験して終わり」ではなく、体験を通じてどんな気分になったか、そのときに他者がどんな態度で接し、どんな言葉をかけてくれると安心できるか、という点を一人ひとりが紙に書き出す「振り返り」です。
つまり、疑似体験プログラムを活用して、心の振り返りを行う行為が重要になるのです。
そのうえで、その記入したシー卜をペアになったスタッフ同士が交換します。
そして、一人が介護者役、もう一人が要介護者役になり、「こうしてもらったらうれしい」との記入内容に沿って介護者役がサポー卜の言葉をかけていきます。
ひと通り終了したら、役を交代します。
こうした疑似体験の場合、「陣害のある人は大変だな」とのレベルの実感で終わってしまうと、「所詮、自分には関係ない」という心理に落ち着いてしまいがちなので、自分にもそうなる可能性があり、そのときにどんな支援があると嬉しいというビジョンにまで掘り下げることが必要になります。
職員間で理解を深め、研修効果を最大化
この研修の最後は、何人かのグループに分かれて、「介護者役となってサポートを行ったとき、日常業務などでは思いつかない、もしくはなかなかそこまでできていないと気づいたことは何か」について話し合ってください。
つまり、それまでの業務のなかで抜けていたボイントを再確認するのです。
話し合いができたら、グループ毎にまとまった再確認ポイントを発表します。
例えば、実際の研修で出てきたポイントの中に「親切心のつもりであれこれと指示を出されると、子ども扱いされているようで気分が悪くなるので、個人の意思をっもっと尊重してほしい」との意見などが出るようになります。
この認識などは、要介護者の尊厳を理解する重要なポイントだといえます。
若いスタッフの場合、頭では自立支援の概念がわかっていても、実際に現場に立っと「困りごとをサポートしてあげる善意の押しつけに陥ってしまうケースがあるため、要介護者はイライラするわけです。
介護職側に「なぜイライラされなければならないのか」との思いがあると、言動が自然にきつくなる可能性があります。
こうした心の行き違いが虐待などの不祥事の温床になる点に気づければ、倫理研修としては大きな成果を上げられるでしょう。
【ポイント】
■利用者の尊厳保護を、バーチャルプログラムで実感させる
■意識せずにやっている『間違い』をロールプレイなどで気づかせる
接遇マナー教育も倫理研修に効果的
倫理研修では、頭で考えるだけでなく、「接遇などの形を身につける」ことも同時に行うと効果的です。
形を整えれば、相手の反応をやわらげられ、「相手のイライラがこちらのイライラを呼ぶ」悪循環を避ける効果が期待できます。
中には、接遇よりも「社会常識」に近いマナーを最初に徹底して身につけさせるケースもあるようです。
例えば、電話の応対、訪問先でのあいさつ、名刺交換のやり方などです。
誰でも知っていそうですが、完璧にできる人は、意外に少ないのではないでしょうか。
身だしなみや言葉遣いを人事評価のボイン卜にしている事業所もあり、研修においても「話を間く態度」などを厳しく指導しています。
結果的に「研修内容がよく浸透するようになった」との報告もあります。
徹底したマナー研修の効果
「ゆとり世代は常識がない」とか「家でのしつけができていない」といった家庭内教育の問題が指摘されるようになってから、すでに何十年も経過しているので、社会常識的なマナーが未熟な世代が介護職員の中にも多くいるはずです。
そのためにも、スタッフが顧客対応をする際の場面をリスト化し、そこで生じる接遇マナーの正しいあり方を教え込む必要があるのです。
同時にマニュアルも整備しつつ、定期的に「接遇マナーコンテスト」を開催しながら、優秀者を待遇面で評価する仕組みを設けるのも効果的でしょう。
コンテストの流れは、マニュアルの内容をまず事前に習熟させ、当日、そのなかの接遇場面から一つ課題として提示します。
例えば、「利用者家族から電話がかかってきたときのあいさつから、電話ロでの対応まで」という具合です。
どの場面が課題として示されるかは当日までわからないので、評価を受けるス夕ッフはマニュアル全体を通しての習熟が必要になり、結果としてマナーが身につくようになります。
マナー研修が安心感につながる
この徹底した接遇マナー研修を行った結果、事業所内における同僚との会話においても、言葉追いが丁寧になったり、慌ただしさのなかで汚れ気味だった事業所内も掃除が行き届くようになる効果も認められています。
介護施設内での言葉遣いが丁寧になったり、事業所内が清潔になれば、スタッフ同士の関係がよくなり、精神状態を安定させるカとなるでしょう。
つまり、自信による心のエネルギーの安定による「ス夕ッフのメンタル面への好影響」が期待できるようになるのです。
これにより、虐待などの事故リスクの軽減にも役立ちました。
地域社会への影響
さらに、この接遇マナーの向上を、利用者だけでなく地域全体に波及させられればベストです。
「地域の人とすれ違ったら必ず声を出してあいさつをする」「始業前、定期的に町内を掃除する」との習慣ができれば、地域との関係も一層よくなるでしょう。
介護施設の運営は、地域社会の協力が不可欠です。
その点でも、接遇マナーの向上が大きな力になると頭に入れておきたいものです。
【ポイント】
■接遇マナーを徹底的に鍛え、定期的にコンテス卜などで評価する
■接遇マナーの向上が、対利用者、スタッフ同士のメンタル面も安定させる