福祉系職種の国家資格「社会福祉士」
介護の世界には「ソーシャルワーカー」という高齢者の生活を支援する職種があります。
ケアマネジャーとともに高齢者の支援をする職種で、入所の面接や金銭的な事務など、より生活に密着した業務を行なう仕事を担当することから、「生活相談員」とも言われます。
その他、病院などでは「医療ソーシャルワーカー」という仕事もあります。
一方、在宅分野では、高齢者の総合相談窓口である「地域包括支援センター」での仕事もありますし、デイサービスといった日帰り用の通所型施設でも生活相談員が配置されています。
これらの職種に就く人は、国家資格である「社会福祉士」を有していることが多いようです。
社会福祉士は、4年生大学の福祉学科の卒業、または通信教育などでも受験資格は得られますが、いずれも国家試験に合格しないと資格を有することができません。
生活相談員に必要な「社会福祉主事任用資格」
社会福祉士も名称独占的な資格なので、この資格がなければソーシャルワーカーの仕事に就けないわけではありません。
ただし、生活相談員は最低限、「社会福祉主事任用資格」の資格をもっています。
これは、4年制大学で決まった科目を履修すれば取得できるハードルが低い資格であり、教育学部や心理系の学部を卒業していれば自動的に取得できます。
そのほか、一定の講習を受けても取得できます。
ただし、比較的簡単に取得できるので、福祉専門職としての価値はあまり高いとは言えない傾向にあります。
医療系職種
介護の現場は命や健康に直結する場所なので、当然、医療系職種の人が必要になります。
医療系の資格は、医師、看護師を中心に基本的には国家資格なので、専門学校や短大、大学を卒業して国家試験に合格しなければ資格が得られません。
とりわけ医師や薬剤師は、大学院を卒業していないと国家試験の受験資格を得ることができないことになっているので、難関資格と言ってもいいでしょう。
医療系職種に関する資格は、現場経験といった職歴には関係せず、その前提として、規定の学校での知識習得が必須となるのです。
看護師
介護現場では、高齢者の健康管理や医療行為(たんの吸引、注射、薬の管理など)を行なうこともあります。
老人保健施設や介護療養病床を除いては、現場に医師が常駐しませんので、看護師が唯一の医療系職種として重要な役割を果たしています。
在宅分野では「訪問看護師」として、医療行為とともに、心身の状態なども医療の観点で確認しています。
昨今は、介護現場でも終末期医療に対応して、末期がんの方などを看取るケースが多くなっていますので、看護師を中心としたケアチームが編成されることが増えています。
看護師の資格取得条件
看護師は、最低3年間の専門学校や短大を卒業していないと受験資格を得られません。
最近では、4年制大学の看護学部が増えています。
また、2年間の学校を卒業して受験資格が得られる准看護師という資格もありますが、現状では正看護師が人気で、准看護師は減少傾向にあるようです。
高齢者の健康管理を担う「保健師」という職種もありますが、保健師は看護師が兼ねるため、看護師と平行して、重要な役割を担っています。
理学療法士と作業療法士
介護現場では、歩行訓練や麻痺した身体のトレーニングなどを行なう施設があります。
この、いわゆる「リハビリテーション」の現場で働いている専門職が「理学療法士」と「作業療法士」です。
理学療法土は、高齢者や障害児者などの運動機能に障害をもった人を対象に、失った機能をできるだけ回復していけるよう支援していく職種です。
作業療法士も対象は同じですが、日常生活における作業活動を通して、訓練や援助をしていく職種です。
いずれもリハビリテ一ション現場の中枢を担う重要な職種で、3年以上の専門学校や短大を卒業しないと受験資格は得られません。
最近では、4年制大学で学ぶ人も増えています。
栄養士
栄養士とは、栄養の指導に従事する職種として、比較的知名度があると思います。
高齢者には糖尿病などの慢性的な疾患を患っている人もいるため、カロリー計算などを含めた、食事管理が必要となります。
そこで、継続的に食事を提供する施設において、栄養状態や特別の配慮を必要とする給食管理、栄養改善の指導を行なうのが栄養士の役割りなのです。
しかも、介護施設などでは、栄養士を必ず配置しなければならないという規定がありますので、比較的ニーズが高い仕事だと言えます。
栄養士の資格取得条件
栄養士は国家試験ではなく、短大を卒業すれば資格を得ることができます。
ただし、上級資格として管理栄養士という厚生労働大臣の免許を受けた国家資格がありますが、これは4年制の栄養学部などの大学を卒業して国家試験に合格するか、もしくは、栄養士になって現場経験を重ねることで管理栄養士になることができます。
介護保険施設では、事業所の収入(介護報酬)面でも、管理栄養士が配置されていると収入が加箅される仕組みとなっていますので、栄養士以上にニーズのか高い職種と言えるでしょう。
歯科衛生士
高齢者の中は寝たきりの人もいるため、自分で歯磨きができず、ロ腔衛生に問題が生じ、肺炎などの原因になることがあります。
ヘルパ一や介護士が歯磨きのケアをしますが、その前に歯ブラシの正しい使い方や歯磨きの方法といった専門家の指導が必要となります。
このようなニーズに対応するのが歯科衛生士です。
歯科医院で歯科衛生土を見かけると思いますが、介護現場でも重要な役割を果たしています。
なお、歯科衛生士は国家資格であり、歯科衛生士学校を卒業して国家試験に合格すれば資格を得ることができます。
歯科衛生士資格所得者の多くの人は、歯科医院に就職しますが、自治体の保健セン夕一などに勤務する人もいます。
住宅や福祉用具関連の職種
段差があったり、玄関先に階段があったりと、在宅の住環境は、必ずしも要介護者にふさわしいものにはなっていません。
要介護者に適していない環境である場合は、一定程度改修する必要が生じます。
このような住宅に関する問題を調整する職種が「福祉住環境コーディネーター」です。
福祉住環境コーディネーターは、1級、2級、3級とレベル分けされており、検定試験制になっています。
受験資格はなく、独学で勉強して受験に臨むというシステムなので、学生でも主婦でも問題なく受験できます。
とはいえ、受験者の多くは、福祉関係、医療関係、建築関係に携わっている人でしょう。
主な仕事は、ケアマネジャーなども担っている「介護保険制度の住宅改修費支給の申請に関する理由書の作成業務」です。
介護保険から工事費の助成金が給付されるため、福祉住環境コーディネーターは住宅改修業者に勤務する人も多いようです。
福祉専門相談員
介護保険制度では、福祉用具や介護用具をレン夕ルすることができます。
その際に「車いす」の選び方や使い方などについて、専門的なアドバイスをするのが福祉専門相談員です。
その他にも「トイレ用手すり」「排せつのための用具」「介護べッド」などの用具もあります。
この資格は無試験で、短期間の講習のみで取得できますので、比較的容易に取得することができるでしょう。
ボランティアと民生委員
介護施設では、多くのボランティアが活動しています。
また、地域の中でも一人暮らしの高齢者宅を訪ねたりと、日常生活の見守り活動の大きな力となっています。
ボランティアは、自治会や老人クラブ、市民サークルなど、地域に根ざした団体がベースになって活動している場合が多いのではないでしょうか。
また、民生委員という、厚生労働大臣から委嘱され住民の相談に応じ、必要な援助を行なう無報酬の職種があります。
在宅介護現場では独り暮らしの高齢者も多く、日常生活の見守りなど重要な役割を果たしています。
今後、益々進展する高齢化社会では、ボランティアや民生委員の役割りが大きくなるでしょう。
自治体職員
市役所などの自治体において、生活保護受給者を担当する職種をケースワーカーといいます。
要介護高齢者の中には生活保護受給者も多く、在宅および施設においても、ケースワーカーが重要な役割りを果たします。
また、市役所には老人福祉主事といった専門職がおり、虐待対応の仕事をしています。
介護は行政と密接な関係にあるため、役所にも高齢者介護に携わる人たちはたくさんいます。
ケースワーカーや老人福祉主事が、行政と介護業界の橋渡し役となっているのです。
成年後見人と市民後見人
高齢者には認知症高齢者が多く、家族および親族がいない一人暮らしの場合、金銭管理や意思決定などに問題が生じます。
とくに近年は、この問題が増加しています。
そのため、後見人をつけて高齢者の意思決定を代わりに行なう必要が出てきています。
後見人は、司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門職が担当します。
ただし、今では一般市民でも一定の研修を受ければ、後見人になることができるようになりました。
いずれにしても、これらの仕事に就くには、家庭裁判所からの選任が必要です。
事務職
介護現場で絶対に必要なのが「事務職」です。
人事、経理、総務など、いわゆるバックオフィス系の仕事をしていますが、介護士を支えてくれている重要な存在です。
介護施設においては、介護報酬という事業所の収入につながる事務作業も担っていることもあります。
この介護報酬の事務作業は、毎月1回行なわなければならず、かなり複雑な業務内容なので、専門的なノウハウが必要になります。
このように、事務系職種は裏方として目立ちませんが、実はかなり重要な仕事なのです。
介護現場は総合力で成立している
このように介護現場では、多くの人たちが協力し合って成り立っています。
いわばチーム体制で高齢者のケアをしていくことが重要であり、具体的には「サービス担当者会議」「地域ケア会議」「施設内カンファレンス」といった会議を通して、それぞれの職種が責任を果たしています。
介護に携わりたいと考えたならば、その業務内容や役割を確認して、自分に合った職種を考えていくべきでしよう。