介護業界はケアマネジメン卜によって大きく変わった
今では、ケアプラン、ケアマネジメント、ケアマネジャーなどの言葉は一般的なものとなりました。
しかし、それらの言葉の意味やその役割をきちんと理解している人は決して多くありません。
「ケアマネジメントはケアマネジャーの仕事」「ケアプランは、介護サービスの計画書、介護報酬算定の管理表」だと、介護の仕事をしている人の中にも、そう考えている人は多いのですが、それは間違いです。
ケアマネジメントは、現在の介護保険制度の根幹であり、現在の高齢者介護の基礎となる考え方です。
介護のプロになるためにはその正確な理解と介護支援専門員の資格取得は不可欠だと考えるべきでしょう。
それは高齢者介護の歴史とも深く関わっています。介護保険制度が始まる2000年までの特養ホームでは、効率性を重視し、起床から就寝まで事業者の定めた生活スケジュールに沿って介護が行われていました。
時間を決めての排泄介助、流れ作業のような入浴や食事、レクレーションや喫茶までもほぼ強制的に集められ、一斉に行われていました。
しかし、このような介助方法では、高齢者それぞれの生活リズムや生活スタィル、個別の希望をくみ取ることができませんし、とても人間らしい生活とは言えませんでした。
その結果、高齢者は生きがいをなくし、無気力になったり、依存心が高くなり認知症が悪化するなどの課題が指摘されていました。
そのため、要介護高齢者1人ひとりの身体状況や生活環境、生活スタィルに合わせて介助を行う「個別ケア」が求められるようになり、介護保険制度の中で制度化されました。
つまり、個別ケアの実践を検討する作業全体をケアマネジメントと言い、その過程や成果を書類にまとめたものがケアプラン、その策定支援を中心となって行う専門職がケアマネジャーなのです。
ケアマネジメントの作業フロー
ケアマネジメントの流れを簡単に整理します。
まずは、要介護認定をもとに、要介護高齢者や家族から、身体状況や生活状況、生活上の希望や不安などを聞き取ります合わせて、ケアマネジャーらケアマネジメントの全体像やその流れ、役割、目的について説明します。これがインテーク(状況把握)と呼ばれるものです。
インテークで得られた身体状況、認知症や疾病・既往歴、居往環境、介護環境などの悄報から、どのような生活課題があるのかをアセスメント(課題分析)し、その課題の改善に向けて、どのような方向性をもつて生活支援を行っていくのか目標を設定します。
その目標を達成するために適した社会資源を組み合わせ、訪問介護や訪問看護、通所サービスなどの也活支援サービスの手配、調整を行い、ケアプランの原案となるものを作成します。
生活改善がケアマネジメントの主眼
このケアプラン策定の過程で、重要になるのがケアカンフアレンスです。
ケアマネジャーが策定したケアプランは、あくまでも原案です。
訪問介護や通所介護、配食サービス、住宅改修、福祉用具など利用するサービスの各担当者が集まり、この原案をたたき台にして、生活課題や目標を共有し、サービス提供上の注意点や連携方法、緊急時の連絡方法について話し合います。
特養ホームや介護付有料老人ホームでも、ケアマネシャーを中心に、管理者、介護スタッフ、看護スタッフ、相談スタッフ、栄養スタッフが一同に会して検討します。
高齢や本人や家族もこれに参加し、ケアマネジヤーから説明を受けるとともに竞見を述べ、その内容に合意すれば、各種介護サービスがスタートします。
このケアプランは、一度策定すれば終わりというものではありません。
特に、高齢者住宅や特養ホームへの転居など生活環境が大きく変わる場合には、当初のアセスメントとは違う生活課題が出てきます。
また、適切に介護サービスが提供されているか、そのサービスによって「自宅で安全に入浴できるようにする」「1人で安全にトィレに行けるようになる」といった目的が達成できているのかを観察する必要があります。
それをモニタリングと言います。
ケアマネジャーは、各サービス担当者からの情報収集や高齢者や家族からの聞き取りを行ないながらモニタリングを進め、定期的に(半年に1度)、また必要であれば随時、ケアカンファレンスを行い、ケアプランの見直しと変更を行います。
また、要介護度認定は定期的(半年に1度程度)に見直されますが、入院などで要介護状態が大きく変化した場合は、認定変更の申請も行います。
他要介護高齢者が介護保険を利用する間、このケアマネジメン卜が継続的に続けられます。
このようにケアマネジメントによって、それまでの画一的な介助を、すべての高齢者に一律に提供する介護ではなく、それぞれの要介護高齢者の生活課題の改善を目的とした、個別的、専門的な介護に変わったということです。
排泄介助は、時間通りの一斉介助ではなく、それぞれの高齢者の排泄パ夕ーンを把握することによって、「オムツ排泄」から「トイレでの自立排泄」への取り組みが進められています。
また、「入浴介助」「食事介助」と言った介助項目だけに注目するのではなく、静かな環境で本を読むことが好きな人への支援、閉じこもりがちな男性高齢者へのケアなど、それぞれの性格や希望によって、声掛けやレクレーションへのアプローチなどの工夫も行われています。
介護は専門的かつ科学的なサービスへ
ケアマネジメントによる高齢者介護の変化は「集団ケア」から「個別ケア」への移行だけではありません。
それ以外にも必要なポィントは3つあります。
ケアマネジメントは法的な契約によって提供されるサービス
「介護サービス」という言葉が一般的になったのは、介護保険法以降です。
それまで、老人福祉施策の措置制度の中で行われていた老人介護は、明確に「サービス」として位置づけられておらず、契約もありませんでした。
そのため行われる介護の中身も、提供方法も、それぞれの法人や事業所で定められた独自のものでした。
しかし、介護保険法による介護は、対価を伴う明確な商品・サービスです。
介護サービスの中身、時間、方法は「介護保険法」および「利用者との個別契約」に基いて提供することが前提です。
介護サービス事業者と高齢者・家族との「介護サービスの契約内容」を示したものがケアプランであり、その内容を検討し、確認する場がケアカンファレンスです。
また、訪問介護サービス事業者は、ケアプラン、ケアカンファレンスに基づいて、その訪問介護の内容や注意点などを記した「訪問介護計画書」を通所介護サービス事業者は、通所介護での介護の内容やサービス提供上の注意点、事故リスクへの対応などを記した「通所介護計画書」を策定します。
その計画書も介護サービス契約の1部であり、その内容に基づいて、個別にサービスを提供することが求められます。
ケアマネジメントに基づく科学的な介護
「ケアプランは個別ニーズに基いて策定する」というのが基本ですが、高齢者本人や家族の希望のままにサービスを調整・提供するのであれば、そこに専門性は必要ありません。ケアマネシャーは単なる御用聞きでしかありません。
しかし、介護保険法のケアマネジメントの基礎は、専門的かつ科学的な介護です。
それが明確に表れているのが、課題分析に使われる「アセスメントツール」です。
身体状況、認知症や疾病の有無などの情報をもとに、日常の生活において、どのような課題やリスクかあるのか分析することをアセスメントといいますが、それはケアマネジャーの個人的な能力や経験のみに基づいて行うものではありません。
「日常生活動作」「認知症.意志の伝達」「行動障害」「介護環境」「居住環境」「疾病・既往歴」など、定められた項目に基づいて適切に聞き取りを行い、日本介護福祉士会や老人福祉施設協議会などの各種団体が策定したアセスメントツールを用いて課題やニーズを分析し、導き出すことが義務付けられています。
もちろん、そのツールによって導き出された生活課題をすべて解決しなければならないというものではありませんが、科学的に判断された課題分析を土台・骨格にすることによって、ケアマネジメントの専門性、科学的な介護が担保されているのです。
ケアマネジメントに基づく介護には、すべて専門的で科学的な理由があるのです。
すべての関係者がケアマネジメントの一員
ケアマネジメントにおいて重要になる考え方=「チームケア」
老人福祉の時代の介護は、「訪問介護」「ディサービス」など、それぞれ個別に介護サービスが提供されていました。
相談員による利用者情報のやり取りは行われていましたが、それはサービス調整のための、担当者間での情報共有でしかありませんでした。
これに対し、ケアマネジメントの根幹にあるのは「チームケア」です。
「訪問介護」「通所介護」それぞれのサービス事業者、介護看護スタッフは自分に与えられた介助、看護だけを個別に行えばよいのではなく、要介護高齢者を中心とした介護チームの1員として、その生活を支えているという考え方です。
例えば、ホームヘルパーが「ベッドから車いすへの移乗にふらつきがある」と気づけば、ケアマネジャーに連絡し、福祉用具の利用や住宅改修につなげていきます。
「独居高齢者が熱を出してディサービスの利用ができない」ということになれば、ケアマネジヤーが配食サービスやホームヘルパーの緊急利用ができないかを打診します。
これは、特養ホームや介護付有料老人ホームでも同じです。
「転倒リスクへの対応」「疾病の急変時にどうするか」など、ケアカンファレンスで相談をしながら、要介護高齢者が、安心して、安全な生活がおくれるようにチームでケアマネジメントを推進していくのです。
このチームケアの考え方が、これからの「地域包括ケア」の基礎となるものです。
ケアプランは、介護サービスの利用計画表、管理表ではありません。
生活相談や食事、家族の役割、必要な介護サービスの植類や介助方法などすべてを包括し、その要介護高齢者の生活をどのように支援していくのかという設計図です。
このケアプランを中心になって策定するのは、ケアマネジャーの仕事ですが、すべての介護サービス事業者、すべての介護看誰スタッフが、ケアマネジメントの一員です。
ケアマネジヤーは、介護、看護、リハビリ、医療、食事など様々な専門職が集まるオーケストラでタクトを振る指揮者のような役割だと言ってよいでしよう。
入浴介助、排泄介助などの個別介助、また定期巡回や声掛けも、その高齢者の個別ニーズや生活課題、事故リスクなどケアマネジメント全体を理解し、合わせてモニタリングを意識しながら行うのが現代の高齢者介護なのです。
どれだけ個人の介護技術、介護知識が充実していても、ケアマネジメントの視点、理解なくして、プロの介護とは言えないのです。